1st ANNIVERSARY SPECIAL STORY CASE5 アリス
「あいつ、一ヶ月くらいで効果が出るって言ってたよなぁ」
先月、姫さんのお供でトレフォレに行った。
その時に挨拶に来た男から、耳寄り情報として聞いた内容を実践してそろそろ一ヶ月が経つ。
「 確認しにメディカルルームへ行ってみるか!」
日々の規定訓練の合間、定期的に行われるメディカルチェックは直近で二か月前。
『簡単に結果が出せてしかも実績はお墨付き』と真面目に言われたら期待も膨らむ。
メディカルルームへと向かう足取りは軽くなり、頬が緩むのを止められない。
(いい結果だったらあいつの事信用してやらないとな)
信用の無いトレフォレで会った男――まぁ本来はE.G.I.Sのメンバーだが――は講師として守備軍、護衛軍のルーキーたちの訓練にあたっている。
要はトレフォレへの出向という扱いだ。
「あいつが講師とか笑えるけど、教えるのは上手いからなぁ……」
本人を直接褒めないのは、後々面倒になることが解っているからだ。
一度、知らずにあいつを褒めてしまって、上機嫌になったあいつに朝まで飲みに付き合わされた。挙句、しばらくの間俺に会うと決まってその話を掘り返しては得意顔をし絡んでくるという面倒くさい状況に陥ってからは絶対にしないと決めている。
「あれがなきゃ、いい奴なんだけどな……」
口にして気づく。
(あいつがいい奴……?)
はたと思い返して頭を振る。全く以て、全然いい奴などではない。
人が気にしていることをずけずけと口にし、クリスと共に『アリスちゃん』などと変な呼び方をし、久しぶりに顔を合わせれば『背伸びたか? あ、一週間やそこらじゃ伸びねーか』とにやけた顔で見下ろしてくる。
全く以ていい奴なんかじゃない。
「思い出したら腹立ってきた!」
憤慨しながらメディカルルームに入れば、くせ者管理者はおらず、器具ひとつ借りるだけだからと、 靴を脱ぎ背筋をピンと伸ばして器具のスイッチを押した。
祈る気持ちでゆっくり、ゆっくりとパネルに表示された測定値を確認する。
「……」
もう一度、背筋を伸ばしてスイッチを押す。
即座に表示されたパネルの数値を確認したが、やはり変わらない。
「は?」
数回同じ動作を繰り返したが、何度やっても同じ数値であり、前回のメディカルチェックの時となんら変わらない数値だった。
「一ヶ月じゃ足りないのか? そうなのか?」
一人途方に暮れていると、 メディカルルームの主が戻って来て、勝手に器具を使用したことをこっぴどく怒られたが、それどころではない。
「……なんで伸びてないんだ」
その一言が切実に響いたらしく、メディカルルームの主は『事情を聞く』とコーヒーを淹れてくれた。
全て話し終え、簡潔に『担がれたな、お前』と呆れた表情で告げられようやく理解した。
メディカルルームの主は『そもそも、人体の成長に関しては、ある一定の……』と説明を始めたが、オレの耳には全く入ってこなかった。
ただ、最後に『勧められたという方法 は何の医学的根拠もなく、そんなもので背が伸びるはずがない』と断言されたことで我に返った。
「だ、だましやがったのか! あの無駄にでかいガサツ筋肉男め!!」
コーヒーの礼は忘れず、そのままメディカルルームを飛び出せば、背中に聞こえたのは『無断使用の始末書出しとけよー』という無情な追い打ちだった。
END