1st ANNIVERSARY SPECIAL STORY CASE2 イン
「今日の午後はお姫様のところで警護と講義するんだったっけ……」
手元の端末を操作しスケジュールを見れば、昼食後は久々に元帥の警護と組織関連を教える予定になっていた。
「んー……久々だし、やっぱり差し入れとかしたいよねぇ、お姫様頑張ってるし……」
午前は非番だったため、まだ時間は十分にある。
ソファにごろりと寝そべり、人気のスイーツやら話題の食べ物を調べ始めれば、メッセージ通知が表示された。
「お、丁度いいところに」
メッセージの送信者は同じE.G.I.Sの隊員であり、美味しい食べ物情報を共有する仲のクリス=シモン・アークランド。
社交的な彼は顔が広いため、情報が早く、特に女性が好むスイーツ情報のエキスパート。
そして、元帥である姫についても知り尽くすマニアっぷりは隊の年上組に苦笑いされるほどだ。
最近の人気スイーツの中で姫が好きなものを聞くにはうってつけの人物。
「それにしても、俺とクリス=シモンが一緒のシフトって珍しいよねぇ。ジンが後から文句言わないといいけど……」
基本的に2人1組で護衛兼講師を務めるが、大概年上組である隊長、ソーマ、アリスと組むことが多い。
小言の多くなるジンと煽るように話す自分は姫を前にしても変わらないため、組ませない様に気を使われているらしい。
逆にクリスとは久々で、姫が元帥になってからは初めてではないだろうか。
(お姫様に甘いクリス=シモンと怠け者認定されてる俺のコンビだとお姫様の勉強が進まないってジンが猛反対したんだろうけど)
隊長が肩を竦めている様子が容易に想像が出来てしまう。
そんなことを考えていれば、クリスから複数のメッセージが送られてきていた。
「ながっ……で、どうするの」
あーだこーだと候補を上げ、姫の好み、アルクまでの通り道がなどと独り言のように羅列されていくメッセージに短く返事をしていれば、漸く決まったようだ。
(フォレカの季節限定ミルフィーユか)
人気店の限定商品とあって行列ができているらしいが、テイクアウトは比較的回転が速いというプチ情報もつけてくるあたり”慣れている”と苦笑してしまう。
「クリス=シモンは男女問わず色々と相談やらエスコート術の講義やらやってるもんなぁ」
感謝のメッセージを返して、端末をローテーブルに転がすと、制服に袖を通し支度を手早く済ませて家を出た。
フォレカは自宅からほど近い位置にあり、アルクへ向かう通り道だ。
情報誌やメディアなどにも取り上げられる人気店のため、連日数人の列ができているのはもはや日常。昼時とあって、デザートを買いに来た護衛軍や守備軍の女性たちの姿もちらほらあり、いくらか長い行列ができていた。
その中に見知った後ろ姿を見つける。
(へぇ、あの人もこういうところに買い物くるんだ……あ、違うか。神殿のじい様方に茶菓子を買って来いとでも言われてサボる口実ができて意気揚々と来たってところかな)
クリスの情報通り、テイクアウトの流れは速く、さほど待たされることなく購入できた。
「あ、そうだ」
おもむろに端末を取り出し、購入したケーキと共に写真を撮りクリスへ報告のメッセージを送れば、浮かれた顔文字で返事が返る。
同じように顔文字だけ返し、ケーキに合う紅茶をどうするか考えながらアルクへ向かった。
END