1st ANNIVERSARY SPECIAL STORY CASE1 ジン
「この資料をデータ化しろって……」
積みあがった書類に溜息が出る。
必要な仕事だと理解しているが、目の前の紙の束は容赦のない高さを誇示していた。
「あの人、自分がやりたくないからって僕に押し付けたんだろうな……」
隊長命令とはいえ、雑用を押し付けられた感は否めないが、放置できるものでもない。
致し方なしと腹を括り、自席へ持ち帰るため紙の束をひと山持ち上げた。
「……意外に重いな」
ずっしりと腕にかかる重量感に視線を落とせば、弾みで眼鏡がずれてしまった。
「っ……両手が塞がっているタイミングで……くそっ」
時計を見れば、この後予定されているミーティングや会議の時間が迫っていた。
どちらも戻している暇はなく、幸い二つ隣という近さ。問題はないだろうと歩き出す。
(こんなとき、彼女ならきっと笑いながら直して……)
そこまで考えて背筋を正す。
(職務中に僕はなんて不真面目なことを考えたんだ! いや、まて。下がっている眼鏡を取り上げてからかいながら楽しそうな笑顔を……)
鼻の頭まで下がってしまった眼鏡をそのままに、そんなことを考えながら自席へと急いだ。
廊下に出て眼鏡が落ちないように顎を上げ、見え辛い視界をかろうじて確保をすれば、前方に見えるのは従兄弟のイン。
(よりによってインか……)
従兄弟で同じ隊のメンバーではあるが、あまり仲がいいとは言えない相手で、現状で一番会いたくなかったメンバーだ。からかわれるのは目に見えている。
(直ぐ傍だからと横着したのはまずかったか……)
しかも、インだけならまだしも、隣には何かと自分を目の敵のように絡んでくる、所謂犬猿の仲と言えるだろう情報機関の少佐が居る。
(……嫌な予感しかしない……)
こちらに歩いてくる二人に何か言われるだろうという予測は、自分が中佐でE.G.I.Sの参謀という位置でなくとも出来る簡単なもの。
それが確実に訪れることは、口角を上げながら近づいてくる二人の表情から間違えようもなかった。
END