1st ANNIVERSARY SPECIAL STORY CASE3 クリス
「はぁ……隊長がこんな頃から知り合いだったとか……羨ましい……でも、小さな頃から愛らしいお姿でお転婆だったって隊長が言ってたけど、そんな風に見えないよねぇ……」
E.G.I.Sの隊長であるコーシ・A・クロウハルト准将が元帥閣下――この帝国の第三皇女殿下と幼馴染だったと知ったオレは、幼少の頃の姫様を一目見たいと隊長にお願いした。
二つ返事で了承してくれたと思いきや、一週間隊長の手伝いをするという条件付き。
だが、オレはそれくらいなら簡単だと、内容を確認することもせずに引き受けた。それがとても楽観的過ぎたのだと初日の手伝いで思い知ることになったけれど……。
何度か意識が遠のきかけながらなんとかやりきって、漸く手に入れた写真データを誰にも見られない様に、中庭にある人目に触れないベンチで開いていた。
「頑張ったおかげで、この姫様を見ることができたんだから隊長の鬼残業の手伝いも悪くなかったかなぁ」
画面いっぱいに表示される姫様の幼いながらも気品あふれる姿に自然と頬が緩む。
しかし、そんな至福の時は長く続かず、端末がメッセージを通知している。
「もー、せっかく姫様の可愛い写真見てるのに……え、うそっ見られた!?」
通知の主はE.G.I.Sのメンバーである、インとソーマで、“締りのない顔……ちょっとやばいよ?”“いくら休憩中とはいえ、だらしない顔はいかがなものか”と手厳しい言葉が羅列される。
どこから見ているのかとあたりを見回せば、二人の姿は見当たらず、まさかと見上げれば、ミーティングルームの窓から顔を覗かせこちらを見下ろしているインがいた。その向こうにはソーマの姿も見える。
「……悪戯しちゃおう」
指を鳴らして風を起こし、インに向けて突風をけしかける。
堪らず顔を引っ込めた様子を笑いながら見ていれば、遠くから今はききたくない声が自分を呼んでいることに気付いた。
「あ、今ので気づかれたかぁ……。悪い子じゃないんだけど、話が長くなるし今は勘弁してもらいたい!」
姿が見えるよりも早く、中庭を抜け出し追ってくるだろう相手を巻こうとアルク内の人込みに紛れるように歩いていく。
(アルクが入り組んだ造りでよかったぁ。E.G.I.Sに配属になって初めてここに来たときは、迷路だーって思ってたけど、今は彼を巻くには丁度いいよね)
慣れた場所であり、元帥執務室までの最短ルートを駆け抜ける。
(姫様の執務室に逃げ込めさえすればっ!)
目立たないように極力普段通りに振る舞いながら、ようやく目的の場所にたどり着いた。
が、張り込みをしていたのだろう。彼が物陰から飛び出てきたから、慌ててノックもせずに飛び込んだ。
「すみません! 姫様!!」
転がるように室内に入れば驚いた表情の姫、その脇にはジンが怒りの表情でこちらを見ている。脇の机では隊長が呆れた顔で頬をひきつらせていた。
(説教される確率120%なんだけど……)
隊長だけならまだなんとかなるが、ジンがいるとなると、笑いごとにはしてもらえそうもない。
すると本棚の傍に立っていた姫が、オレの足元で何かを拾い、その手元を見ればオレの端末。
拾い上げた拍子に先程まで見ていた画像が表示され、これには隊長も額に手をやって項垂れた。
「あの、姫様、それは……隊長からいただいた画像でしてー……」
“俺を巻き込むな”と言わんばかりに睨まれたが、どうせ怒られるのなら巻き込んでしまえと視線を外す。
姫は案の定、隊長とオレを並ばせ怒り始めたが、ジンがやんわりと間に入り、助かったと思ったのも束の間、執務室の床の上に准将と少尉が正座をさせられるという恥ずかしい事態になった。
END