2017.04.21 担当:叶宗司
- [十一羽目]
……待ちくたびれちゃった
久しぶり……って挨拶でいいのかな?
ふふ。
こっちの姿で出歩くのは久しぶりだから、ちょっと気恥ずかしいなあ。
- あ。
- 春木くん!
良かった。会いに行こうと思ってて……―― - ……?
目を丸くして……どうしたの? - どっち?
- え?
- どっちの叶さん?
- ………………。
- ……彼とは少し容姿が違うと思うけど?
- 今日は表向きの顔ってこと?
- うーん。別にどっちが表とかないのになあ。
しいて言うなら……今日の気分、かな? - …………。
- 叶さんは、たまに人間みたいなこと言うね。
- そりゃあ、僕の方は人間のつもりだからね。
- そんなことより。
- ねえ、春木くん。
今日は夏木くんと一緒じゃないの? - ……夏木は部活。
- そっかあ、残念。
僕の方はあんまり夏木くんに好かれていないみたいだから
少しでも仲良くなるきっかけになればって思ってオススメの本とか持って来たんだけど……無駄になっちゃった。 - そういうのいらない。
叶さんは夏木にあんまり近づかないで。 - どうして?
- …………。
- 僕があの約束をばらしちゃうかもって、心配しているの?
- っっっ!!
- ふふ。
春木くんは夏木くんのことになると分かりやすくって面白いなあ。 - 大丈夫だよ。
だって君とあの約束をしたのは……僕じゃない。 - 君が彼と交わした約束事に関与するつもりはないよ。
- ね? だから……安心して?
- …………。
- はーるー!
遅くなってごめんね。
そこで染谷くんに会っちゃって、相手してたら…………。 - 夏木くん! 会えてよかった~
- っ!?
- ……なんで、ここにいるんですか?
- なんでって……夏木くんと春木くんに会いに?
- 僕らは会いたくありませ~ん。
どうぞお帰りください。 - ええ!?
- まさか、会って数秒でお帰り下さいって言われるとは思わなかったよ。
- 夏木くんはなんで僕のことを嫌うの?
- こっちの叶さんは胡散臭くて気持ち悪いからです~
- それは、どういう意味?
- だって、こっちの叶さんは――
- はぁ……はぁ……。
……弟くん……走るの……意外と速いよね……。 - あれ……?
なんか……ちょっと修羅場な感じ? - 夏木。
染谷さんとちょっと遊んでおいで。
この人の相手は俺だけでするから。 - はるが残るなら僕も残る。
- いい子だから、言うこと聞いて。
- …………。
- 状況分かんないけど。
何? このお兄さんって怖い職業の人?
一也呼んでくる? - 染谷さん。
- え? あ、はい。
- 夏木のこと、連れてって。
- はる、僕も……――
- 夏木。
- ……分かった。
- えーっと。
弟くん、なんか奢ってやるからさ、そんな泣きそうな顔すんなって。 - 春木くんも話終わったら合流するよね?
- ……うん。
- ……ちょっと待って。
無理に引き留めるつもりはないけど、挨拶くらいしてもいいかな? - 君は……夏木くんや春木くんの友達?
- いや、友達って言うわけじゃなくて。
俺の友達の知り合いがこの双子……っていう、説明しづらい関係……ですかね? - ふふ。
じゃあ僕は、君の友達の知り合いの更に知り合い、になるのかな? - 初めまして。
叶 宗司って言います。
君とも今度、ゆっくり話してみたいな。 - ……なんか、気さくな感じだけど妙に含んだ言い方する人だったな。
- …………。
- 弟くん?
- ……はるのこと、置いてきちゃった。
僕が……はるを守らないといけないのに……。 - あの、さ。
部外者だし身勝手なこと言えないけど……。 - 守らなきゃって思うよりも、守ってもらった分をどう返すか考えたら?
- きっと兄貴の方も、弟くんを守りたくて行動したんだろうし。
そこはやっぱ、兄貴の面子をたててやってさ、違う場面で助けてやんなよ。 - ……染谷くん。
- そもそも学校の目の前だし、そんな大事にはならないって~
- …………うん。
- にしても。
あの人、前に会ったことがある気がするんだよなー。
どこだったか、ぜんっぜん思い出せないけど。 - …………。
- それにさ、目が笑ってない感じがしない?
弟くんが嫌ってるのも同じ理由? - ……僕、叶さんのことよく知らないんです。
- はるがどこかで知り合って、それで……どんどん話が進んじゃって……。
- 僕らの目的のために協力してくれたことは感謝してるんです。
でも、あの姿の叶さんって……なんだかとても怖いんです。 - 口調も表情も優しいけど、でも……。
- んん? ちょっと落ちついて?
弟くん、さっきからなんの話を……―― - ……もうやだ。
叶さんの話はしたくない!!
染谷くんも聞かないでくださいっっ - ※走り去る夏木。
- え!? ちょっと弟くん……!!!
- ……あんな怯えた顔、初めて見た。
- …………。
俺は、あの人の何が気になってるんだろう。
すれ違ったとかじゃなくて、目を見て会話をした……気さえするのに、その記憶はない。 - ……ただの勘違いだといいんだけど。