ミニドラマ「Viaggio in Roma」 前日譚SS
「~♪」
「…………」
うちの金庫番――オリヴァーが黙々と帳簿をつける中。
その隣で、俺は鼻歌混じりに書類を確かめる。
「なあ、オリヴァー。……どう思う?」
「好きにしろ」
返答は素っ気ない。
ついでに言うとさっきから視線も合わねえ。
「邪魔するぜー!」
談話室の扉が開き、うちの情報屋が顔を出した。
「よう、ルカ! よく来たな、歓迎する」
「? どうしたんだよ、ギル。今日はいつにもまして機嫌いいな」
「お、わかるか? 聞いてくれよ、実は昨日な――」
「ルカ……」
話し始めようとする俺の横でオリヴァーが渋い顔になる。
「な、なんだよ? オレ、何か悪いこと言ったか?」
「……昨日から軽く5回は聞かされているんだぞ、私は……」
「いいじゃねえか、減るもんでもなし」
俺は笑いながら経緯を説明する。
「実はな。少し仕事が落ち着いて、近々まとまった休みを取れそうなんだ」
「へえ」
「だから次の休暇は、愛しの恋人を誘って旅に出ることにした」
「……へえ」
「旅行に誘ったときの彼女の顔、……あれは他の誰にも見せたくねえな。あんなかわいい顔して……あんなかわいいことを……」
思い出すとすぐ彼女に逢いたくなる。
とはいえ、休暇のためにも仕事の手は抜けねえ。
「けど、悩むのは行き先だ。……フランスのリヨンとか悪くねえだろ? 綺麗なとこだし、食事も美味い。ウィーンも捨てがたいよな、音楽の都。ブルク劇場に連れてって――」
「ギルバート」
オリヴァーは頭痛でもするのか、こめかみを押さえた。
「どれだけ屋敷を空けるつもりだ! 国外に行く暇はないだろう、流石に!」
「わかってる。わかってるって、オリヴァー。言ってみただけだ。この国は見るもんがたくさんあるしな。行き先に迷っちまう」
「……つか、姉ちゃんに聞けばいいじゃん。『どこ行きたい?』って」
「ああ、もちろん聞いた!」
「……ルカ……」
「え。まさかオレ、また余計なこと言った……?」
顔色が悪い友人たちに俺はあらましを語って聞かせる。
「『あんたの希望が俺の希望だ。行きたい場所があるなら教えてくれ』って聞いたら、彼女、『ギルの行きたい場所がいい』って……」
「…………」
「…………」
「いじらしいだろ!? どうするんだ、こんな……こんなかわいい恋人がいて……。俺は本当に、幸せな男だ……」
思い出すたびに愛しさが募る。
「……じゃ、ギルの好きなとこにすればいいだろ。姉ちゃんのことだから本気で言ってるんだろうし。気を遣ったわけじゃなくてさ」
「……俺の見たい景色を一緒に見たいってことか?」
「まあ、そういうことなんじゃねーの……」
だとすれば、俺の恋人は――
(可愛すぎるんじゃねえか……?)
「……よし、決めた」
俺は椅子から立ち上がり、宣言する。
「行き先はローマだ!」
「それは良かった。仕事の話に戻るぞ、ギルバート」
「あ、オレも情報持ってきたんだけど! もう話していいか?」
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