椿の堕ちる日

物語

春が来たら、私はぬ――

昭和初期の日本。
とある界隈で、特定の一族にしか発症しない病の噂が真しやかに囁かれておりました。
それは“体へ椿のような模様が浮かび上がって死ぬ”という奇病についてでございます。
しかし、これほど恐ろしく謎に包まれた病であるにもかかわらず、その噂は決して表舞台に出ることはなく、その界隈でも特定の者しか知らない“噂”でございました。
一体何故なのでしょうか――……

さて、ところで、この病は椿の開花と同じくらいに発症し、花が終わる頃に死亡することから椿病(つばきびょう)と名付けられておりました。
体へ浮かび上がった椿はとてもとても美しく、見る者を魅了する――とも。

主人公、千代子がこの病にかかったのは、両親が椿病で死んだ翌年のことでございました。

絶望する千代子に声をかけたのは、怪しい風貌をした奇術団「明星座」の座長。
路地裏で座り込む千代子を見つけて心を痛めた彼は、千代子にこう言い放ったのであります。

「やがて死ぬ身なら――その命、俺にくれねぇか?」

かくして、千代子は明星座の一員として生活することになったのでございます。
この出会いが何を変えるのか、まだ誰も知らないのでありました――……